Part 1:車酔い
 クリスの車酔いはブリーダーさんの家からウチに向かう途中で始まった。
 彼女はその日息子の腕に抱かれて後部座席に乗っていた。
 都内の渋滞の中、なるべく揺れないようにと気を遣っていたにもかかわらず、それは突然に始まり、息子はとうとう車の中でタオルを腰にまくはめになった。しかも、それは一回ではおさまらなかった。
 途中で車を止めて休憩を取ってやりたくても環八では路駐もままならず、結局ウチまでガンバッテもらうしかなかった。
 もっとかわいそうだったのは、カーゴスペースで犬舎に入ってまみれていたクリスの兄ちゃんアンディ(現小次郎)であった。
 その後車は数日間窓を開け放しておかれたことは言うまでもない。

 クリスの車酔いはその後もつづき、「行った先が楽しい所だったら酔わなくなりますよ」という先輩方のアドバイスも全く役に立たず、乗車した途端に、口からはよだれが糸を引き初め、家のまわり2〜3分コースでも、自宅の駐車場を目前にバックし始めると安心するのか、「うううっ」となってしまう。あと数秒で降ろして上げられるのに.....。

 最後の手段ということで、遠出をするときは必ず酔い止めを服用してもらうことにした。薬は獣医さんに処方してもらった(内容は人間の酔い止めと同じだそうだが、投与量がわからないので、獣医さんからもらった方が安心)。
しかし、これは乗車2時間くらい前に飲まないと役に立たないのと、これを服用すると眠くなるという副作用がでる。
(訓練競技会や、ドッグショーなどに行く時はテンションがあがらず苦労した)
ただ、これを処方どおりに飲ませていれば吐くことは無く、回を重ねるごとに、車イコール吐くという嫌な条件反射がだんだん薄れ始め、彼女も成長して体が安定してきたのか、多少時間はかかったが結果的には車酔いを克服することが出来た。
 そんなクリスも気がつけば車大好き犬になっていて、車に荷物を積み始めると、置いていかれないようにとそわそわ、ドアを開けると真っ先に飛び乗ってくるようになった。まずは一安心。

 クリスの娘ニッキーも母の遺伝を受け継いだのか、これまた車は大の苦手。母と違って、乗るだけで吐くのではなく、一生懸命我慢していたが、時間がちょっと長かったりすると吐いてしまうといった状況だった。
結局彼女も遠出の際は必ず酔い止めのお世話になっていたが、いつの間にか距離が伸びても吐かなくなっていた。

 同じ兄弟でもハンスは食後30分もすれば車はいつでもOK。そうなると、どこに行くのもお供をする機会が増えてきて、いつの間にか車乗りの達人となった。今では助手席で人間のような顔をして乗っている。私が降りて用事を済ませている間は、運転席で席を温めておいてくれるので冬場は助かる。