Part 9:避妊と去勢の考察(クリ家の場合)

2003年10月
●避妊?去勢?

が初めて家族に加わったのは中学3年の時だった。社宅暮らしが長く、飼育できる生き物は小動物に限られていたので、犬を飼うのは長年の夢だった。

初めて家族となった犬はコリーで、「少女ポリアンナ」という物語の主人公からポリーと名づけられた。
庭にはフェンスで仕切られたスペースにそこそこの犬舎が作られ、家人が家にいる時は、庭はどこでも出入り自由という生活だった。が、その時は室内で犬を飼うという感覚は誰にもなく、たまに雷や花火に驚いて庭から逃走するのを防ぐために玄関に入れてやるくらいだった。

当時の私は犬のシーズンなど全く考えも及ばず、家族もそれに触れたことは無かった(もちろんは母知っていたが)。したがって当然避妊など思いもよらなかったが、幸いなことに、彼女は外暮らしでも襲われることもなく、無事7年の生涯を終えた。


ポリーが逝って5年目に我が家にやってきたのはオスのハスキーだった。引っ越したばかりの家に空き巣が入り、無用心だから番犬を飼おうという話になったのだ。

初めは女の子を希望していたのだが、たまたま訪ねたブリーダーのところに女の子がおらず、7ヶ月に成長していた男の子を家人がえらく気に入って彼に決めてしまったのだ。そして彼はスコットと名づけられた。
男の子は初めてで、少々戸惑うこともあったが、たまたま彼を介して知り合った犬友達がみんな女の子だったこともあり、彼は誰と喧嘩をするでもなく、女の子を押し倒すことも無く、10年の生涯を終えるまで私は一度も去勢を考えたことは無かった。

●去勢

スコットは喧嘩を仕掛けることは無かったが、よく喧嘩を売られて怪我をした。そこで今度こそ女の子と決めてクリスが家族に加わった。

彼女を自分の管理の下で育ててみて初めてシーズンがどんなものか、シーズン中はどうしなければいけないか、掃除が結構大変だとか、いろいろなことがわかってきた。
自転車で公園内を散歩していると、急にノーリードの男の子達に囲まれてビックリさせられたこともあったし、シーズンも何度目かになると、あちこちでアピールして歩く彼女の姿に恥ずかしい思いもさせられた。

彼女は4度目のシーズンで母になった(「Part 6:クリスの出産と子育て」に詳細)。予定日を遅れた早朝出産で大変あわてさせてくれたが、それ以上に感動を沢山くれた。

予定通り女の子1頭を残すことにしたのだが、予定外に男の子も一頭残ることになった。狭い家の中で男の子と女の子を同居させる。女の子は年に2回シーズンが来る。2頭いれば4回である。私の頭の中では、彼を残すと決めたときにすでに去勢は決定されていた。
去勢による弊害ももちろん考えた。ホルモンのバランスが崩れることによる免疫性の低下もあるだろう。が、それ以上に、一人では3頭の同居によって生じる双方のストレスを回避できない現実を考えると、去勢によるメリットの方が大きいと判断したのである

白羽の矢がたったハンスは生後6ヶ月目から獣医さんでチェックしてもらい、彼の成長に合わせた結果生後9ヶ月で去勢手術を受けた。

手術当日彼を病院に置いて帰る私の後ろから追いかけてくる彼の悲痛な鳴き声に、後ろ髪を思い切り引かれた私は、夕刻彼の無事な姿を見るまで罪の意識にさいなまれた。

その後ハンスはどうなったか。
去勢したことによって、男らしさがなくなったか。
答えは「否」。

道端で男のを見かければクリスやニッキーの前に出て、「俺は男だ!」と言わんばかり。
女の子をみかけると、「お嬢さんちょっといいですか?」とその肩に手をかける。
プレーボーイ健在なり。

確かにトイレをするときには、一般の雄犬のように、高々と足を上げることはない。
上げても10センチ程度。

散歩に出ても、マーキングは一切しない。
おしっこの重ねかけは母犬クリスや、姉ニッキーのおしっこの上に限られている。
おかげで、自転車で散歩していても、ハンスにひっくり返されることは無い。
どちらかというと、母や娘が急に「大」をもよおした時ぐらいである。

彼は男?オカマ?
答えは本人のみぞ知る。

●避妊.....。

ボーダー飼いのメーリングリストでもよく話題になる去勢と避妊の問題。ハンスの去勢が済んでも、いずれはクリスやニッキーの避妊手術を考える時が来るだろうとは予測していた。女の子は7歳を過ぎれば婦人病の発症率が上がる。一度でも出産していれば確率は低いと言われたが、単に確率の問題だけで、皆無ではない。
現在の生活状況において、今後クリスの出産は不可能である。更に彼女の健康を考えるといずれ避妊手術は必要になってくるにちがいない。子宮蓄膿症等の緊急を要する疾患に襲われたら、果たしてすぐ対処できるのだろうか。


クリスにはもう一つ心配なことがあった。彼女はシーズン前になると、子宮蓄膿症を思わせるように水分摂取量が増えるとともにトイレが近くなって、トイレコントロールができなくなるのである。そばに誰かいれば要求を言えるが、誰もいないときは悲惨なことになるし、その症状を見るたびにまわりは心配させられるのである。
そうやって考えあぐね、今度のシーズンが終ったら、今度のが終ったらとぐずぐずしていているうちにクリスも6歳と9ヶ月になっていた。

●そして

シーズンが終って1ヶ月経った頃、クリスは旅先で急に食欲を落とした。環境の変化かと思っていたが、帰ってきても元に戻らず、またいつものわがままかと思っているうちに更に4日がすぎ、さすがに心配になって仕事の帰りにかかり付けの病院に連れて行った。

血液検査では白血球が通常の二倍(およそ20,000)、尿中のpH値が高く、比重が逆に低い。熱は39.3度とやや高い。レントゲンも撮ってもらったが、明確な原因はわからなかった
翌日は休みだったので、一日様子をみていたが、やはり元気はあまり無い。が、ボーダーの悲しい性、楽しいことには目がなく、遊びたくなると途端に元気が盛り返してしまう。
ところがその晩から更に水分摂取量や尿量が増え、とうとうごはんもほとんど食べなくなってしまった。

翌日獣医さんの紹介で、超音波の専門の先生に診ていただき、子宮の腫れ具合から、子宮蓄膿症も疑われると診断。私の次の休みを待っていると悪化する可能性もあると共に、このままごはんを食べなかったら体力もどんどん落ちていくと思われ、翌日手術を受けることを決意した。

そして月曜日、食欲が落ちてから10目の午後、子宮・卵巣摘出手術を受ける。
術後獣医さんからの連絡で、手術は無事成功したと聞いたが、その日に連れて帰るのは無理かもしれないと言われる。点滴がはずせそうもないのと、クリの心拍数がやけに少ない(徐脈)ので、もうしばらく様子をみた方が良いだろうということになったのだ。
会社からの帰り道再度連絡をいれたところ、やはり入院を優先することに決まり、病院に向かう道からUターンして帰宅した。

晩年椎間板ヘルニアの手術を受け、手術は成功したのに、翌日急変して逝ってしまったスコットのことを思うと、会いに行くべきかとも考えたが、面会すればきっと彼女は帰れるものと喜んでしまい、それがかなわなければ余計ストレスになると考え、あえて顔を見ないで帰ってきた。
そして翌日、病院でごはんも少し食べられ、お散歩も出来るところまで回復したクリを夜迎えに行った。

病院で摘出したクリの子宮を見せてもらった。フランクフルトのように大きくなった子宮に傷をつけると、中から黄土色の液体が出てきた。膿だそうだ。診断結果はやはり子宮蓄膿症。手遅れにならずに良かった。

早く帰ろうとするクリに引っ張られるように帰宅。やはり傷口が気になって舐めてしまうので、しばらくエリザベスカラーははずせそうもない。

その晩は病院で夕方ごはんを食べたと言っていたが、子供達のごはんの時間に彼女もごはんをちゃんと食べた。ゆっくりだったが、最後までちゃんと舐めて食べ終わった。食欲がなくなって11日目のことだった。良かった。

●災い転じて福となす?

ず〜っと頭にあっても実行にうつせなかったクリの避妊手術。
結局病気になってクリには負担をかけてしまったが、幸いにも進行が遅かったため大事に至らず事なきを得た。優柔不断な飼い主でごめん
.....

今回手術を受けたことで、クリの血管がもろいことがわかった。今後大きな打撲を受けた時などは注意が必要だそうだ。
また徐脈も発覚した。普段心拍数など計ったことが無いので、これがクリの正常値なのか病気に起因するものかまだわかっていない。今後様子を見ることが必要だ。

以上のことから、今回のことはクリにはかわいそうだったが、今後クリと暮していく上で気をつけなければいけないこともわかり、良いきっかけとなったと思うようにしている。

HOME