Part 8:親子の多頭飼い

クリス家の場合

その1 クリ母さんと子供達

 クリスはウチに来て2年間ほとんど私と一対一の生活をしていたために、2歳をすぎて母親になるとき、果たしてちゃんと子育てが出来るのかとかなり心配した。
犬にも子育てのうまい子と下手な子がいるらしい。子煩悩な母がいたり、子供を踏んでもあまり気にしないようなずぼらな母など個体差があるそうだ。
クリスの場合はずぼらというより、彼女自身があまり自分を犬と認識していないか、あるいは自分が子供なので、子供たちに対して無関心になってしまうのではないかという懸念があった。が、あに図らんや、出産直後の手際やその後2ヶ月の子育てを見る限り彼女はごく平均的なお母さんをやっていたように思う(Part6:クリスの出産と子育て」参照)。
特に子供たちを踏むこともなく、かといって過保護に面倒を見続けるわけでもない。適当に母親をやると、私のところに来てボールを投げて遊んでくれと催促をし、子供達の泣き声を聞けばミルクをやりに産箱に帰っていった。

生後2ヵ月をすぎ、新しい家族のもとに3頭の子供たちが迎えられ、2頭が残ることになった。彼女は出て行く子達に別れの挨拶をした(普段はあまり遊ばない男の子と引き取られる前の晩しきりに遊んでいた)。

外に出た子供たちに対しては、その後公園で会った娘に対して、残した子供や自分のそばに寄せないように唸ってみせたことがあった。私が彼女を懐かしんで声をかけたり触ったりしようとすると更に態度はきつくなった。まるで「あんたは外の子になったんだからね。早く一人前になるのよ。」とでも言っているかのようだった。
男の子に対しては、最初あった時にはやはり警戒し、一緒に暮らしているハンスやニッキーを守るような仕草をしていたが、すぐにうちとけて遊ぶようになり、傍によって騒いでも嫌がらなくなった。

月日が経つと、今まで敬遠していた娘を黙認するようになった。特に寄せないでもなく、かといって遊ぶでもなく、傍にいて同じ時間を共有しているといった雰囲気である。いかにも「あんたも一人前になったのね。」と言っているようであった。が、たまに出会うと「ちゃんとやってるの?しっかりしなきゃダメよ」と出会い頭に一喝してお腹を見せさせたりする。結局家の中でもニッキーにしょっちゅう同じことをしているから、娘に対してはいつも厳しいというところか。

一方ハンスに対しては、普段おもちゃを取られても怒るわけでもないし、傍にクンクンしにきても何も言わない。ただ、どこかに地雷があるらしく、それを踏んだ時だけものすごい顔で怒ることがある。その瞬間ハンスはぶっ飛び「どうしようボク....。」と言う情けない顔をするのである。その地雷がなんだか私はわからない。
そうそう、ハンスといえば、9ヵ月目で去勢しているにもかかわらず女の子は大好きで、外で出会えば「おねぇちゃん、ボクと遊ばない?」と片手をかけたりもする。が、なぜかウチの女の子達にはたとえシーズンに突入していても全く興味を示さない。なぜだろう。私の知らない時に怖い目にでもあったのだろうか。


------NEXT