北京冬季五輪 5G+4K/8K+AI 京張高鉄

最高時速350kmの新幹線 京張高鉄
 2019年12月30日、北京北駅からスキー競技が開催される張家口や延慶を結ぶの高速鉄道、京張高鉄173kmが営業運転を開始した。張家口や延慶は2022年北京冬季オリンピックのスキー競技場になっている。最高時速350km、北京清河駅から張家口太子城駅まで50分、延慶駅までは26分、張家口崇礼駅まで65分で到着する。張家口までは在来線では3時間ほどかかっていた。高速道路も開通させたが、走行時間は2時間40分が必要となる。
 大会期間中は、「北京冬季五輪列車」を運行し、自動運転で列車の発車や運行、停車、ドアの開閉を行うほか、スマートメディア車両や高速鉄道モバイルテーマ郵便局、バリアフリー設備の導入、5GUHDスタジオの設置など、さまざまな乗車体験を可能にする。1日最多40往復の輸送サービスを提供、北京-太子城間5往復、北京-崇礼間5往復、北京-延慶間7往復を基本路線として大会期間中毎日運行する。
 「北京冬季五輪列車」は、8両編成で、乗車定員は564人、ビジネス、1等、2等、メディア専用の各車両が設けられている。うち5号車は多機能車両となっており、メディア作業エリアが設けられ、5Gハイビジョンによる競技の生放送を可能にしている。
 北京冬季五輪を開催するにあたって、輸送面の問題解消が大きな課題だった。スキー競技が開催される延慶は北京市中心部から約75キロ、張家口は約180キロも離れている。 
 習近平政権は、最高時速350キロメートルで走る高速新幹線、京張高鉄の建設を進めた。建設費は、500億元(約8500億円)に上るとされている。
五輪新幹線京張高鉄 Source Record China
全長173kmに10の駅、本線(北京-張家口)と崇礼線、延慶線2つの支線が設けられた Source 彭湃新聞
世界初の自動運転高速鉄道
 京張高鉄は、トンネル内も含めて全線にわたり5G通信インフラを整備して、列車は自動運転機能を備え運転士は同乗しているが、異常を発見した場合に手動による緊急停止をすることになっているが、通常は監視しているだけで、運転操作は発車から停車まですべてが自動運転で行われる。
 京張高鉄は、世界初の最高時速350kmで無人運転を行う高速鉄道として、中国は鉄道技術を世界にアピールするショーケースとなった。
  1日40往復の冬季列車を手配、そのうち6列車が無人運転列車となる。有人列車のチケットは77元(約13860円)から231元(4万1580円)で発売されているが、無人運転列車は90元(16200円)から270元(4万8600円)とやや高く設定されている。無人運転の列車は2日以上前の予約が必要になる。
北京冬季五輪用にデザインされた「北京冬季五輪列車」 世界初の自動運転高速運転を実現 Source CGTN
万里の長城へも観光も
 この京張高鉄は、中国の鉄道ファンにとって、格別の思い入れがある。京張線が開通したのは1909年、初めて中国人が設計し、建設をした純中国産の鉄道路線である。当時は張家口まで8時間かかっていたという。
 しかし、この歴史ある路線は、2022年の北京冬季五輪が決まると、高鉄の建設のため、2016年に廃線となった。その歴史ある鉄道が復活をしたということから鉄道ファンに注目をされている。
京張高鉄は、鉄道ファンでない人にも注目されている。万里の長城の観光スポットとして有名な八達嶺駅が設けられた。今まではバスや車で行くしかなかったが、今後は高鉄で万里の長城観光ができることになる。
 発達嶺駅は深度102mの地下駅となり、世界で最も深い地下駅となっている。また、高鉄列車は万里の長城を地下トンネルで抜けて走ることになる。北京北駅から八達嶺駅までは33分で到着する。
 コロナ禍の中で、京張高鉄の実際の乗客数はまだ少ない。
 北京市では、2022年の北京冬季五輪をきっかけに、京張高鉄を観光資源としてアピールしていく計画だ。
負の遺産」への懸念 五輪肥大化の歯止めは絶望的
 2008平昌冬季五輪でも韓国高速鉄道(KTX)が建設された。仁川国際空港や首都ソウルから競技会場エリアの平昌や江陵間を結ぶ全長277.9kmの高速鉄道である。10両編成の列車が15両投入され、最高時速250kmでソウルから平昌まで1時間30分で到達した。 総事業費は約3兆7597ウォン(約3800億円)の壮大な事業だった。 しかし、五輪大会後は、乗客は激減し、列車の運行便数は大幅に減らされて採算が悪化し、平昌冬季五輪の「負の遺産」になりつつある。 京張高鉄は、果たして北京冬季五輪のレガシーになることができるのか、懸念が浮かび上がっている。
 北京-張家口間では、高速鉄道の他に高速道路、京礼高速道路も建設した。交通インフラは飛躍的に整備されるが、その建設費は大会開催経費の膨張につながるのは必死の様相だ。
 平昌冬季五輪の開催経費は1兆4000億円にも達し大会後、批判浴びた。五輪大会の肥大化への歯止めが必須の課題になっている中で、「コンパクト五輪」の実現は2022年北京大会でも絶望的である。
京張高速鉄道が世界初の5Gフルカバー高速鉄道
 2021年7月、北京市通信管理局は、北京と張家口を結ぶ京張高速鉄道の北京区間全線で建設が計画されていた5G屋外基地局147ヶ所がすべて完成したことを明らかにした。京張高速鉄道は世界初の5Gネットワークのフルカバーが実現した高速鉄道になった。
京張高速鉄道は北京冬季五輪2022の交通インフラの大黒柱であり、北京北駅と張家口駅を結び、総延長は174キロメートル、そのうち北京区間は70.05キロメートル、設計最高速度は350km/hに達する。
 2021年8月末には5G屋内配置システムの建設も完了した。
 また北京冬季五輪2022の全ての会場に5Gネットワークの建設を進め、国家体育場(「鳥の巣」)、国家スピードスケート館、国家遊泳センター(通称「ウォーター・キューブ」)、首都体育館、北京冬季五輪・パラリンピック大会選手村など17会場・施設で5Gネットワークのフルカバーを実現させ、史上初の「5G五輪」を実現した。
CGTN(China Global Television Network)は、「北京冬季五輪列車」にスタジオを設置して五輪関連番組を超高精細(UHD)放送、“5G + 4K / 8K ”を実現。(2022年1月6日) Source CGTN
北京冬季五輪大会は「5G+4K/8K+AI」のショーケース
 中国は、北京冬季五輪大会の舞台に次世代移動通信5G、4K/8K高精細放送、AR/VRで、一気に世界の主導を握る戦略である。
 2019年3月、中国工業情報化部、国家ラジオテレビ総局、中央広播電視総台(CMG[China Media Group] 、 旧CCTVを傘下に置く)は、今年3月、共同で「超高精細映像産業発展行動計画(19~22年)」を発表した。「4K先行・8K随行」という基本方針で超高精細映像産業の発展を掲げて、2020年までに▽4Kテレビの販売台数が全体の4割超、▽4K放送の視聴者数が1億世帯、2022年までに▽4Kテレビが全面普及、▽8Kテレビの販売台数が全体の5%超、▽4K・8K放送の視聴者数が2億世帯、▽超高精細映像産業規模が4兆元(約60兆円)を超える規模-という意欲的な目標を明らかにした。
 CMGは、2018年10月に4K試験放送を開始し、年間3万時間の高精細コンテンツの制作能力を整備、2020年北京冬季五輪大会では、8Kチャンネルの試験放送を開始するとしている。
8K中継車(视频技术有限公司)   出典 新奥特
 この方針に基づき、中国では初の4K/8K中継車を自主開発して製造し、4K/8K高精細コンテンツの試験放送やネット配信を実施するテスト環境を構築している。NHK技術研究の倣って上海に超高精細映像の研究開発を担う研究所も設立された。そのターゲットは次世代移動通信、5G環境下での8KやVR/AR、人工知能(AI)の技術開発だ。
 その一方で、4K/8Kコンテンツの制作、ストレージ、配信・取引プラットフォームも整備していく。
 また、高精細映像の配信に備えてCATVの光ファーバー化の推進し、200Mbpsの伝送速度を確保する。北京冬季五輪大会までには、CTAVオペレーターは少なくとも8チャンネルの4Kチャンネルを開通させて、北京市内の4K視聴者500万人超の達成を目指す。
 NHKが開発研究を牽引した8K技術は、現時点では日本が圧倒的にリードしているが、圧倒的なヒト・モノ・カネを投入してくる中国に追い抜かれる可能性も生まれてきた。日本では、4Kテレビの売れ行きは好調だが、4Kコンテンツ充実が遅れていて、4K放送の視聴者が伸び悩んでいる。8K放送はNHKが撤退を表明して「失速」状態、北京五輪大会を目指して疾走している中国の勢いに日本のプレゼンスは喪失し始めている。
北京冬季五輪 5Gで世界の覇権を目論む China Telecom
 China Telecomは、Beijing2022の唯一の公式コミュニケーションサービスパートナーとして、ネットワークの構築を担う。携帯電話の高密度で高負荷のニーズを満たすために、会場内の5G通信サービスと大会会期間中に放送される5G + 4K / 8K超高精細サービスのクラウドを提供する。
 大会前は延慶の国家高山スキーセンターには移動体通信ネットワークはまったく存在しなかった。競技場建設を進めると同時に、China Telecomは大量の要員を投入して、山頂に通信機器を運び上げてワイヤレスベースステーション設置した。China Telecomは延慶競技ゾーンに合計31のサイトを建設し、すべてのサイトで3G/4G / 5Gをサービス、5Gは200MBpsを達成している。
 China Unicomは、最新の5G(300M)機器と分散型Massive MIMOセルカバレッジ方式を採用して、スタンドエリアのネットワークカバレッジと容量を確保した。
 張家口ゾーンでは、China UnicomはBeijing2022専用ネットワークと張家口のローカルネットワークの2つのネットワークを実装し、冬季オリンピックのさまざまなタイプのユーザーに通信サービスを提供する。
 張家口の競技場にChina Telecomが構築した5Gネットワークは、3.5G帯 + 2.1G帯の組み合わせたハイブリッドネットワークを採用し、高周波・低周波を利用して容量とカバレッジの両方を視野に入れたネットワーク構成を実現させた。大容量・高速の3.5G、広いカバレッジ機能の2.1Gの特徴を生かした構成である。200Mbpsを実現した5Gネットワークは、スーパーアップリンクなどの高度なテクノロジーを適用が可能になるとしている。
 さらに国家クロスカントリーセンターでは、「有線メディア+」と「ワイヤレスメディア+」の統合サービスを展開し、確実な通信サービスを確保した。通信機器のキャビネットには、マイナス40度の極寒環境でも機器が正常に動作するようにした。
 競技中継では、チャイナユニコムの5Gビデオバックホール技術により、冬季オリンピックのさまざまな会場で高精細ワイヤレスカメラが広いエリアに配備され、視聴者は臨場感の溢れた視聴体験が可能になる。
 ネットワークのバックアップ体制については、China Telecom河北支部が「冬季オリンピックの全州支援」モデルを採用し、900名を超える規模のコミュニケーション運営支援チームを設立、地方冬季オリンピック支援司令部・派遣センター、TTOC(冬季オリンピック通信運営司令部)チーム、10会場通信支援チーム(9会場通信チーム+ 1モバイル支援チーム)、大規模ネットワーク支援チームなどを整備した。