能登半島地震

元旦に襲った能登半島地震 想定外の被害に
出典 日本テレビニュース
 2024年(令和6年)元旦1月1日 の16 時 10 分頃、石川県能登地方の深さ約 16km でマグニチュード(M)7.6(暫定値)の地震が発生した。能登半島全域に甚大な被害をもたらし、死者241人(震災関連死15人を含む)、負傷者は1188人、住宅の損害7万5000棟(2月29日)、最大3万4000人以上が避難所に避難した。現時点(2月29日)での避難所で暮らす人が1万1449人にも上り、この内4733人が二次避難所で暮らしている。
 気象庁は、名称を「令和6年能登半島地震」と定めた。
 この地震により石川県志賀町(しかまち)で最大震度7を観測したほか、輪島市、珠洲市、七尾市、穴水町で震度6強の揺れを観測、能登半島の大半の地域が震度6弱以上の揺れに見舞われた。
 その後、気象庁が、石川県が管理している輪島市門前町走出に設置されている震度観測点のデータを詳しく分析したところ、震度7を観測していたこと判明した。
 震源の震央は珠洲市高尾町と見られ、能登半島の北西側から南西に延び、佐渡島付近の日本海まで、約150kmの活断層が動いたとしている。
 この発震断層は北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、地殻内で発生した地震である。
京大防災研究所は珠洲市を襲った地震波を詳細に分析したところ、2つの断層が10秒余りの時間差でずれ動き、強い揺れが1分以上継続したことが被害を大きくした。
 能登半島では2020年12月ごろから地震活動が活発化し、今回の大地震は一連の地震活動の一つと考えられる。
出典 気象庁
出典 気象庁
6000年の間で最大規模の地盤隆起 4メートル
 国土地理院による観測衛星「だいち2号」のデータを用いた2.5次元解析によると、輪島市など能登半島北西部が最大約4メートル隆起し、西へ同約1メートル移動するという大規模な地殻変動が発生したことが確認された。能登半島周辺では、およそ6000年の間で最も大規模だった可能性があることが判明している。
 また、日本地理学会の「令和6年能登半島地震変動地形調査グループ」は、国土地理院の地形図と発災後の空中写真を比較し、輪島市黒島地区で最大240メートル、珠洲市では最大175メートルに及ぶ海岸線の前進が起きたと発表した。能登半島の沿岸全体では約4.4平方キロ(東京ドーム94個分)の陸化が生じて港が完全に陸上になった場所もあり、今後、生活基盤の再構築が求められる。
 産業技術総合研究所地質調査総合センターは輪島市の鹿磯(かいそ)漁港で現地調査を行い、防潮堤壁面に固着したカキやカンザシゴカイ類などの生物が隆起によって離水した様子を観察した。その結果、防潮堤は3.8〜3.9 m隆起していたことが判明した。
鹿磯漁港の防潮堤に固着した生物遺骸が示す隆起の様子。人が持っている標尺の長さは5 m 出典 産業技術総合研究所地質調査総合センター
最大5.1メートルの津波が襲う
押し寄せる津波 珠洲市 出典 TenkiJP
 気象庁はこの地震で石川県能登に対して大津波警報を、山形県から兵庫県北部を中心に津波警報を発表し、警戒を呼びかけた。輪島港で1.2m以上、金沢観測点で 0.9m(いずれも速報値)、富山で0.8mなど、北海道から九州にかけての日本海側で津波を観測した。その後、発表していた津波注意報は、2日10時00分に全て解除した。震源が陸と海の境界線だったため、津波の第一波の到達は極めて早く、珠洲市では「1分以内」に第一波が到達した。その後も繰り返し長時間に渡って押し寄せ、浸水域は輪島市や珠洲市などで少なくとも120haに及んだ。津波のエネルギーは強力で、海岸線を破壊して、漁船を転覆させたり、車を押し流したり、家屋を破壊したりした。京都大防災研究所の現地調査によると、地震で発生した津波の海面からの高さは石川県珠洲市では最大4.7メートル、志賀町では最大5.1メートルに達したとした。現地調査では、石川県珠洲市、輪島市を中心に海岸線を調査し、建物のガラスに付いた砂や、打ち上がった海藻、ブイなどの漂流物などの津波の痕跡を探して、どのくらいの高さの津波が襲ったのか、どこまでの範囲が浸水したのかを解析した。
津波に襲われた珠洲市漁港 出典 ABEMA News
津波に襲われた珠洲市 出典 X投稿画像
道路の寸断 土砂崩れ 家屋の倒壊 断水・停電
 1月1日のM7.6の地震後も活発な地震活動が継続し、地震活動は北東-南西に延びる 150 ㎞程度の範囲に広がった。震度1以上を観測した地震が1557回、震度4以上は60回、震度5以上は15回発生した。(2月1日時点)
 この地震で能登半島の各地で土砂崩れ、建物の倒壊、大規模な火災、道路の寸断、停電や断水、通信の途絶などライフラインの壊滅などの甚大な被害をもたらした。輪島市の一部地域などでは、県内の民放4社とNHKの放送が停波した。
 交通が遮断され救援活動や支援物資の輸送ができなくなった「孤立集落」が山間部の各地で発生し、1月8日の時点で、輪島市で14か所2817人、県内では24地区3345人の住民が孤立生活を強いられた。
連絡がつかない安否不明者も、一時222人に達した。
2月8日、石川県は集落の孤立が全て解消されたと発表した。8日時点で輪島市大屋地区の集落の5人だけになった。
孤立集落支援 輪島市下山地区 出典 陸上自衛隊土砂崩れ現場 輪島市 出典 国土交通
 道路の亀裂、陥没、土砂崩れによる通行止めは、石川県が管理する道路で、最大42路線87か所に達し、交通は途絶した。
 自動車専用道「のと里山海道」や海岸線を一周する国道249号線の幹線道路も被災して、救援・復旧作業や支援物資の輸送に深刻な影響が出ている。
炊き出し 宝立小中学校 出典 X投稿画像
 停電は、輪島市で1万400戸、珠洲市で7000戸など、県内で最大4万戸に及んだ。石川県は1月28日に停電は概ね解消したとした。能登半島地震の発生から2カ月近くたってもなお、半島の一部地域では停電が続いている電力業界では「東日本大震災より、復旧が遅い」と指摘されている。その理由は寸断された道路が復旧作業のネックになっているという。
 断水は輪島市(約1万1400戸)、珠洲市(約4800戸)、七尾市(約2万400戸)、志賀町(約8800戸)、能登町(約6100戸)、穴水町(約3200戸)の6市町のほぼ全域、県内で11万戸に及んだ。浄水場が被災したことに加えて配水管が広範囲に損傷したことで断水は長引き、仮復旧には2月末から3月に末が見込まれている。被害の大きかった珠洲市や七尾市の一部の地域では仮復旧は4月以降になる見込みである。 
 2月29日、被害の最も大きい珠洲市では、断水した約4800戸の内、水道が復旧したのはわずか150戸、復旧率は3.1%にとどまり、4650戸で断水が続いている。輪島市では1万1400この内、約4760戸で水道が復旧されたが、約6640戸で依然として断水が続き、復旧率はようやく41.8%となった。市は、心部では2月末、周辺部では3月中旬から下旬にかけて断水の解消を目指すとしている。
 一方、下水道の復旧作業は終わっていない地域が多く、水を使いすぎると下水管が詰まるおそれがあるとして節水を呼びかけている。。
 石川県では能登地方の被災した浄水場の機能回復をおおむね終え、漏水調査や修繕の作業に入り仮復旧を急ぐとしている。全面復旧は年単位の時間が必要とされている。
木造住宅の倒壊 被害を拡大
 今回の地震で被害を大きくした要因は木造住宅の倒壊だった。
 木造住宅が全壊・大破する揺れは、震度の強弱だけではない。地震の揺れの周期が大きな影響を与える。
 今回の地震では木造住宅などの中低層の建物に被害を与えやすい周期1~2秒の強い揺れが被災地を襲った。この周期の揺れは阪神・淡路大震災や熊本地震でも観測され多くの家屋が倒壊した。
 さらに周期3秒の強い揺れも発生、建物をゆっくりと大きく揺らす周期の揺れで、被災地の神社や寺が軒並み倒壊させた。
 被害の大きかった珠洲市では約6000戸の内、約半数の3173戸が全壊した。また輪島市では約1万戸の内、3384戸が全壊、3229戸が半壊した。
 石川県は遺族の同意を得られた129名の犠牲者の死亡状況を調べ、「家屋倒壊」が111名と全体の86%を占めた。家屋倒壊が地震の被害を甚大化する要因となっている。
 1月21日、被災した建物の危険度を調べる「応急危険度判定」の結果が公表され、調査を実施した県内3万1600棟の4割に当たる1万2600棟が倒壊の恐れがあり、立ち入りが「危険」と判定された。
 被災地の復興で最重要なのは住まいの確保である。早急に実施しなければならいのは仮設住宅を整備して被災者の避難所暮らしを解消することである。石川県では約3500戸の仮設住宅を着工し、300戸が完成した。しかし、入居希望者は7000件あるとあsれている。
 さらに生活再建の足かせになりそうなのが大量の災害廃棄物処理である。災害廃棄物の発生量は輪島市で34.9万トン、珠洲市で27.6万トン、奥能登地域で計151万トンに達する。この地域の年間ゴミ排出量の60年分の膨大な量である。石川県は難題に取り組まなければならない。
住宅倒壊 輪島市 出典 WorldNews24
耐震基準を満たさない古い住宅が倒壊 高齢者率の高い奥能登
 能登半島地震で石川県が27日までに氏名を公表した死者129人のうち、約9割の111人が家屋倒壊で死亡したことが判明した。多くは圧死や窒息死とみられる。被害の大きい地域は、「旧耐震基準」の古い木造家屋が多く、高齢者が多く資金難などで耐震工事が進まなかった背景が浮かびあがる。一方で津波による死者は珠洲市の2人だけ。海岸付近などの地盤が隆起して防波堤の役割を果たし津波の被害が軽減されたと思われる。その結果、倒壊死の割合が相対的に高くなった。
 1995年の阪神大震災では全半壊した家屋が20万棟超にのぼり、犠牲者の8割あまりが家屋の倒壊で亡くなった。
 2000年に改正された現行の耐震基準では「震度6強~7でも倒壊しない」強度が求められているが、 旧耐震基準では「震度5強程度で損傷しない」ことを想定しているため、今回、震度6強以上の激しい揺れに襲われた奥能登地方では住宅の倒壊が防げず甚大な被害が出た。
 国では対策を強化し、耐震診断や改修費の補助、改修を促す税制優遇に取り組み、2030年までに耐震不足の住宅をほぼなくすことを目指している。
 都市部では建物の建て替えが活発で、東京都の耐震化率は92%(2019年度)に達し、巨大地震の発生が想定される地域も耐震化率が高く、南海トラフ地震に備える高知県では88%(2022年度)にのぼる。
 しかし高齢者の多い奥能登地域では、現行の基準を満たす住宅の割合(耐震化率)は低く、輪島市で45%(2022年度)、珠洲市で51%(2018年度)で、全国の平均の87%(2018年)を大きく下回る。
 地震による犠牲者を減らすには、耐震化率を高め住宅の倒壊を防いで倒壊死を無くすことが重要だが、高齢者率が高い地域では極めて難題である。
倒壊した家屋の救助作業  出典 警察庁
能登を代表する観光名所、輪島朝市消失
 能登半島の代表的な観光名所、輪島朝市は地震直後に発生した大規模な火災で約200棟が全焼、焼失面積は約4万8000平方メートルに達した。
 この地区では古い木造住宅が密集し、店舗を兼ねた住宅が多く、道路に面した壁が少ないために1階が潰れる「層崩壊」で倒壊したことが大規模な火災につながった。地震で倒壊したことで建物の骨組みがあらわになったことで延焼が拡大した原因と考えられる。
 強い揺れで道路の被害や障害物の散乱で消防車両の通行が妨げられ、断水で消火用水が使用できず、消火活動が妨げられたのも大火となった要因となった。
 地震による火災の発生件数は、石川県、富山県、新潟県で合わせて17件、この内、地震の揺れによるものが13件、津波が原因のものが3件だった。火災発生率は人口1万人当たり1件で、東日本大震災の約5倍になる。
輪島朝市火災現場 出典 陸上自衛隊
災害ボランティア 七尾市、志賀町、穴水町で活動開始 断水で宿なく日帰り
 1月27日、石川県が募集した一般の災害ボランティア75人が27日、七尾、志賀、穴水の3市町でようやく本格的な活動を始めた。被災地で災害ごみの搬出や住宅内の片付を行い、被災者から感謝の声が上がった。
 石川県では金沢市からボランティア専用送迎バスを運行して活動を支援したが、日帰りで行う現地の活動時間は約4時間程度にとどまりボランティアの作業量は極めて限定的になっている。
 石川県では、これまでボランティアの受け入れを控えるよう求めてきた。奥能登の道路網が寸断され、ボランティアなどの一般車両が増えると交通渋滞が発生して緊急車両や災害復旧車両、支援物資の輸送車両の通行に支障が起きたり、現地の宿泊施設が確保できず混乱が起きたりするのを避けるためとしている。
 その一方で1月6日、災害ボランティア受け付けの窓口になるホームページを開設して事前登録を開始、1万5千人超が登録を済ませたが、現地の受け入れ態勢が整わず活動は絞らざるを得ない。
 被害がより大きかった輪島市や珠洲市、能登町では、道路や水道の復旧が遅れ、いまだに受け入れの時期が見通せない。
 石川県は、現地で活動した一般募集のボランティアは2月16日時点で、延べ2739人にとどまる。すべて公的なボランティアセンター(ボラセン)に登録し、活動に参加した人数で、「個別に被災地に行くことは差し控えて欲しい」と呼びかけている。ボランティアの活動は被災者支援にの復興に欠かせない。とりわけ高齢者の多い奥能登では重要度は極めて高い中で、対応策が求められている。
 2月16日石川県は被災地の宿泊施設不足を解消するためにのと里山空港のターミナル施設の多目的用地にコンテナハウスや仮設カプセルホテルなどプレハブ式の宿泊施設、82室134名分を建設し、3月中に運用するとした。運営は被災した地元のホテル・旅館の~事業者に任せるという。

 ボランティア活動は、活動に係る費用・手配はすべてボランティアに参加する人の自己負担、交通費、宿泊場所や食事の確保、防寒具、活動に必要な資材は自身で行う「自立型」が原則である。

 阪神・淡路大震災では発生1カ月で延べ62万人の災害ボランティアが活動、多い時では1人2万人、計延べ167万人が参加して1995年は「ボランティア元年」とされた。東日本大震災では、50日間で23万人、計延べ138万人に上った。
 その一方で、阪神大震災では全国から殺到したボランティアの受け入れで行政側が混乱をきたした。被災者からは歓迎される一方で、その反省からボランティアの受け入れを行政側がコントロールする方向に転換した。
 「ボランティア元年」から29年。能登半島地震で、災害ボランティア活動を支える難しさが浮き彫りになった。
災害ごみを片付けるボランティア 出典 石川県もっといしかわ
難題 災害廃棄物 約240万トン 石川県の年間廃棄物の7年分
 石川県は、能登半島地震で発生する災害廃棄物の量が県全体で通常の7年分にあたるおよそ240万トンに上ると推計されると明らかにした。石川県の年間のごみの排出量のおよそ7年分に相当する。
 今回の能登半島地震で、石川県ではおよそ5万5000棟の住宅で全壊や半壊などの被害が出ていて、被災した自治体では家屋を解体した瓦礫や、家具などの災膨大な害廃棄物の処分が課題となっている。
 自治体別では
▽珠洲市が最も多く57.6万トン、
▽輪島市が34.9万トン、
▽能登町が31.3万トン、
▽穴水町が27.5万トン
 奥能登地域だけで合わせて151万トン余りと県全体の6割を占め、通常のおよそ60年分に相当するという。
 石川県では、全半壊した建物は公費で解体処理を行うが、家財道具などは被災者自身が処理をしなければならない。
 災害廃棄物は各自治体の仮置き場にいったん集め、そこから陸上や海上で県内外の処理施設に運んで処理を行う。人手が不足している市や町には、国や全国の自治体から応援職員を派遣して体制面を支援する。
 石川県では2年後の2026年3月末までに処理を完了することを目指すとしている。