- 東京五輪組織委元理事を逮捕 スポンサー選定で収賄の疑い 東京地検
- 2022年8月17日 、東京五輪・パラリンピックのスポンサー選定と公式ライセンス商品の販売をめぐり、大会スポンサーの紳士服大手「AOKIホールディングス」側から計5100万円の賄賂を授受した疑いが強まったとして、東京地検特捜部は17日、大会組織委員会の高橋治之(はるゆき)元理事)を受託収賄容疑で逮捕した。AOKIの前会長・青木拡憲(ひろのり)、前副会長・青木寶久、専務・上田雄久の3容疑者は贈賄容疑で逮捕した。
特捜部の発表によると、高橋元理事は2017年1月以降、青木前会長らから、Tokyo2020のスポンサー契約や公式ライセンス商品の契約に関して有利な取り計らいを受けたいという依頼を受けた。2017年10月~2022年3月、高橋元理事が代表を務めるコンサルタント会社「コモンズ」を受け皿に、青木前会長らの資産管理会社から計5100万円の賄賂を受け取った容疑。
贈賄罪は3年が公訴時効のため、青木前会長らの贈賄容疑の対象は、このうち計2800万円となった。
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- 高橋治之元Tokyo2020組織委員会理事 出典 ER Factory
- 関係者によると、コモンズは2017年9月に青木前会長らの資金管理会社とコンサル契約を結び、毎月100万円を基本とするコンサル料を受け取っていたという。
ここから続き 組織委は2018年10月、AOKIをスポンサーの一つ「オフィシャルサポーター」に選定。五輪エンブレムを使った公式ライセンス商品として、スーツなどの販売も承認した。
組織委はスポンサー募集の専任代理店に、高橋元理事の古巣の広告大手「電通」を指名。公式商品の審査などを担う組織委マーケティング局にも、電通社員が多く出向していた。
関係者によると、AOKIの「スポンサー料」は7億5千万円とされた。このうち2017年にAOKI側が先払いした2億5千万円の大半が、電通子会社を通じてコモンズに渡っていたことも判明している。残りの5億円は、電通子会社を通じて組織委に送金された。
- 特捜部は7月下旬、コモンズ、AOKI、電通などを幅広く家宅捜索し、押収資料の分析や関係者の任意聴取を続けてきた。特捜部は、スポンサー選定や公式商品承認をめぐって青木前会長の依頼を受けた高橋元理事が電通側に働きかけるなどし、コンサル料名目で賄賂を受け取った疑いが強まったと判断したとみられる。
高橋元理事は取材に「資金はコンサルの対価で、組織委内で働きかけはしていない」と強調した。青木前会長も特捜部の任意聴取に「人の紹介を期待した」と述べ、資金の賄賂性を否定したという。
- コンサル料、全て「賄賂」 組織委理事、みなし公務員 検察、継続的な便宜認定 五輪汚職
- 東京五輪・パラリンピック大会から約1年。「世界最大のスポーツの祭典」をめぐり、大会運営を担った組織委員会の元理事が汚職事件で逮捕された。ブラックボックスとされてきた巨額の五輪マネーはどこまで解明されるのか――。
- 東京地検特捜部は今年に入り、「企業が集い、大きな金が動く」(検察幹部)東京五輪・パラ大会をめぐる様々な企業のカネの流れに着目し、捜査を始めた。
このなかで、大会スポンサーだった紳士服大手「AOKIホールディングス」側と、大会組織委元理事の高橋治之容疑者(78)とのつながりを把握した。
捜査のポイントは、資金提供の趣旨と組織委理事の職務権限だった。
高橋元理事のコンサルタント会社「コモンズ」は、五輪前からAOKI側とコンサル契約を結び、毎月100万円を基本とする「コンサル料」が振り込まれていた。広告大手「電通」出身で「スポーツビジネスの第一人者」とされた高橋元理事が、民間人の立場でコンサル業務を請け負うのは問題ない。しかし、組織委の理事は特措法で「みなし公務員」扱いとなっており、理事としての職務に関して金品を受領すると収賄罪に問われる立場だった。
関係者への任意聴取を繰り返すと、AOKIを創業した前会長・青木拡憲(ひろのり)容疑者らは高橋元理事と複数回面会し、スポンサー選定や公式ライセンス商品の迅速審査をめぐってやり取りしていた。元理事がスポンサー選定などの実務を担った古巣の電通側に働きかけをしたとみられる様子も見えてきた。
コンサル料は、五輪事業への参画で高橋元理事がAOKIに図った便宜に対する見返りの疑いがある――。こう判断した検察は特捜部以外からも数十人の検事や事務官を応援で投入。7月26日以降、コモンズ、電通、AOKIなどを4日連続で家宅捜索した。その後、応援検事らをさらに増やし、約3週間後の17日、逮捕に踏み切った。
特捜部は、2017年10月から大会閉幕後の今年3月までに支払われた総額5100万円のコンサル料を、全て賄賂とみなして逮捕容疑に含めた。一連の資金提供には「便宜供与のお願い」「便宜への謝礼」「今後も同じような取り計らいを受けたい」という連続した趣旨があると判断し、一部分だけ切り取るのではなく、全体を賄賂と捉えた。
一方、高橋元理事は朝日新聞の取材に、コンサル料は五輪とは無関係で、便宜供与もしていないと強調した。逮捕後は、コンサル業務の実態や、組織委内で高橋元理事にどこまで決定権があったのかなどについて、さらに捜査が進められるとみられる。
別の検察幹部は「商業化が進み、利権が絡むようになった近年の五輪を象徴する事件だ」と話した。
- 青木 拡憲AOKI Holdings前会長 Source AOKI Holdings
- スポンサー集め、電通が主導 国内68社から3761億円
- 東京五輪・パラリンピックのスポンサー契約にからむ今回の事件。大会のスポンサー契約とはどのようなものだったのか。 大会の組織委員会が直接契約したスポンサー企業は、上位から「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」の3階層に分かれていた。高位のスポンサーになるほど宣伝広告に使える権利が増える仕組みだ。高橋元理事に資金を提供したAOKIホールディングスは、最下位のオフィシャルサポーターだった。
関係者によると、スポンサー料は企業ごとに異なるが、カテゴリー別の目安は上から順に150億円、50億円、十数億円程度だったという。スポンサー料の一部を物品やサービスの提供で補う契約もあった。
組織委と国内スポンサー契約を結んだ企業は68社(うち1社はパラリンピックのみ)。そこから集まったスポンサー料は計3761億円にのぼり、組織委が得た総収入6404億円の6割近くを占めた。組織委関係者は「国内スポンサーから得た収入は、おそらく五輪史上最高額だろう」と語る。多額のスポンサー料が集まった理由の一つが、過去大会で原則とされてきた「1業種1社」の撤廃だ。国際オリンピック委員会(IOC)は当初「権利の扱いが難しい」と反対していたが、業種を細分化したり、横並びでもうまくバランスを保ったりして複数社との契約を可能にした。
- こうした業種の切り分けやスポンサー料の設定、IOCとの調整を主に担ったのは、高橋元理事が長年籍を置いた大手広告会社の電通だった。過去の大規模スポーツ大会でマーケティングを担当した知見が買われ、複数社との競合の末、組織委の専任代理店となった。
電通は本体として動くだけでなく、多くの社員を組織委に出向させた。大会の公式ライセンス商品の審査などを担当するマーケティング局などに配属された。局長も電通から出向した社員が務めた。同社は開閉会式や聖火リレーの運営も実質的に主導した。
東京五輪の準備段階の契約書の一部は、今後も閲覧が難しい。国や自治体が作成した文書は情報公開制度の対象となるが、組織委は公益財団法人で、制度の枠外にあるからだ。
2020年3月に都議会が可決した都のオリパラ文書条例は、保存文書について「都が利用できるよう要請する」と定めたが、あくまで要請レベル。法人の清算後、10年間の文書保存を担う清算人が要請に応じるとは限らない。組織委は6月、司法上の問題が起きた場合などを除き、「原則、一般の人は見られない」と説明している。
東京地検特捜部は電通を関係先として家宅捜索を行っている。