東京五輪談合 腐敗の連鎖

東京五輪談合事件 組織委元次長、電通幹部ら4人を逮捕 東京地検
 2023年2月8日、東京五輪・パラリンピックの運営をめぐる談合事件で、東京地検特捜部は、大会組織委員会の大会運営局の元次長・森泰夫容疑者、広告最大手「電通」のスポーツ局長補だった逸見晃治容疑者ら計4人を独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕した。森泰夫容疑者は1967年生まれ、中学時代から陸上競技に打ち込んでいたスポーツ青年だった。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科を卒業し、日本陸上連盟事務局に就職、頭角を現わして2014年には事務局長に登り詰めた。そして同年、東京2020組織委員会の運営局次長となった。
 森泰夫容疑者の他に逮捕されたのは、業務を受注したイベント制作会社「セレスポ」の専務・鎌田義次(59)と、番組制作会社「フジクリエイティブコーポレーション(FCC)」の専務・藤野昌彦(63)の両容疑者。
 組織委は2018年、各競技のテスト大会の「計画立案業務」を発注し、43の競技会場ごとに26件の競争入札が行われ、9社と1共同企業体が落札した。契約金は計約5億3800万円だった。テスト大会は、東京オリンピックで33競技・パラリンピックで22競技のすべての競技で合計56回開催された。
 テスト大会の「計画立案業務」の落札企業は、その後のテスト大会の実施運営や本大会運営の業務も、入札を行わない「随意契約」でそのまま「自動的」に受注した。「随意契約」の総額は約400億円の巨額に達した。
 特捜部の発表によると、森元次長ら4人は2018年2月~7月、テスト大会から本大会に至る業務を対象に、面談などを通して計7社で受注を調整。各社の受注希望を踏まえて受注予定業者を決め、その業者だけが入札することで合意するなどし、競争を制限した容疑があるとした。
 7社は、セレスポ(受注額1億1590万円)、ADK(同1億385万円)
、電通(同7979万円)、セイムトゥー、東急エージエンシー、博報堂、フジクリエイティブコーポレーション(FCC)、電通ライブである。落札企業は、計9社だったが、広告大手の「大広」と電通グループ企業の「電通ライブ」の2社は談合に関与しなかったとして除かれた。
 関係者によると、森元次長はテスト大会の計画立案業務の入札前、電通側と一緒に各社の受注意向や過去の実績を調べて一「一覧表「を作成した。落札結果1社しか参加しない「1社応札」が大半だった。
組織委が入札の際に用いた複数の説明資料には、落札者には原則としてテスト大会から本大会までの大会運営業務も継続して委託すると記載されていたとされる。極めて計画的で組織的な「談合」で、悪質性は高い。
 特捜部は森元次長と電通から組織委に出向していた職員、電通本体の担当者らが受注調整を主導したとみて捜査を進めた。森元次長と電通側は任意聴取に対し、当初は「(一覧表は)全会場に穴が開かないよう、少なくともこの社は参加してほしいという意味で作っただけ」と違法性を否定している。
 しかし、一転して1月下旬に電通側が談合の認識まで認めると、森元次長も「電通と一緒に受注調整した」と談合を認めたとされている。
 セレスポは、森元次長が組織委を辞めた後、顧問として籍を置いていた。セレスポ側も任意聴取に「正当に入札した」と談合の認識を否定したという。
 特捜部は昨年、東京大会のスポンサー選定などをめぐって計約2億円の賄賂を受け取ったとして、組織委元理事の高橋治之被告(78)を受託収賄罪で起訴した。談合事件は、この汚職事件の捜査で浮上した。森泰夫Tokyo2020組織委員会運営局次長(当時) 出典 Tokyo2020Tokyo2020陸上競技のテスト大会 イベント制作会社「セレスポ」が受注 筆者撮影
泥沼の東京五輪の腐敗 「電通支配」からの決別を
 東京五輪の腐敗は、組織的な談合事件に発展し、泥沼に陥っている。
捜査が終結した贈収賄事件では、高橋治之元理事の「個人的」な問題とする雰囲気も支配していたが、今回の談合事件は、組織委員会、電通、スポーツ・イベント運営企業、まさに発注側と受注側が計画的、組織的に巻き起こした事件で、関係者の責任は大きい。この事件で、五輪大会のを開催を担った国、東京都、組織委員会の信用は国際的に完全に失墜した。2030冬季五輪の招致で、国際オリンピック委員会(IOC)から高い評価を受けていた札幌冬季大会も風前の灯になってきた。
今回の談合事件では、五輪大会開催の実務を実質的に担っていた「電通」から逮捕者が出て事は極めて大きい。
捜査が終結した贈収賄事件では、スポンサーの獲得業務を担った「電通」は、関係先として捜索を受けて数十人の社員が聴取されたが、結局、誰も逮捕や起訴をされなかった。しかし、今回は逮捕者を出す事件の当事者になった。
 五輪では、大会の招致活動から、事前準備、大会運営など「電通」が実質的に圧倒的な主導権を握っていた。今回の事件で、「電通支配」に決別すべき時が来たのではないか。
 特捜部は贈収賄事件の捜査の過程で、五輪パラのテスト大会の計画立案業務を舞台にした談合疑惑をつかんだとされる。独占禁止法を所管する公正取引委員会に情報を伝え、一気に捜査態勢を整えた。
 対象は、大会開催前に行われるテスト大会で、組織委が競技ごとに業務発注した26件の競争入札、電通など9社と、1共同企業体が落札していた。テストト大会は、競技ごとに合計56回も開かれた。
複数の企業が受注調整に関与した疑いがある中、特捜部は、「電通主導」の談合事件と見て、真っ先に電通に捜索に入った。
特捜部や公取委と協力して、テスト大会の発注業務を担った組織委の大会運営局に的を絞った。会運営局では日本陸上競技連盟出身の次長と、電通からの出向者が受注調整を差配し、ここに電通本体の担当者が加わり、3人で協議した疑いがあるとした。
 発注側と受注側が一体となって受注調整が行われ、それぞれの入札には1社しか参加しないケースが目立つ結果となった。価格競争が行われず、受注側の言い値で落札額が高値で決まった可能性が大きい。
電通本社 東京・汐留 出典 Wikipedia
「談合、認識ゼロ」「調整、悪いと言われると」 スポーツ界の「闇」
 しかしスポーツイベント運営企業などからは「正当な調整だ」という意識が根強く聞こえる。 発注側の組織委も「どこも手を上げない競技があることが一番困る」という態度で、「組織委はノウハウが豊富な電通に、何をどこまで受注できるかは事前に聞いたはず」という関係者もいる。スポーツイベントの運営は「特殊」で、各競技ごとに運営方法が異なるために、イベント運営会社の間で、「すみ分け」がある程度できているという。 8社の中で落札件数や金額が最も多かったセレスポは1977年設立の老舗の運営企業、スポーツ大会や式典の企画・運営が専門で、とりわけ陸上競技の分野で大会運営を担った実績が大きい。東京2020大会では陸上競技の会場となった新国立競技場の運営が期待され、結局、運営業務を落札した。 「談合した認識はゼロ」、ある落札企業の幹部もそう言い切る。「会場運営はマニュアルがあればできるわけではない。他社ではできない知識や経験があり、それが評価された結果、落札できた」とする。 落札企業は、テスト大会の後に行われる本大会の運営業務についても、入札を伴わない「随意契約」で受注した。テスト大会の「計画立案業務」の規模は約5億4千万円だったが、それに続くテスト大会や本大会の大会運営業務は約400億円規模に膨れ上がる。 特捜部と公取委は、本大会の「随意契約」まで見越した受注調整の疑いもあったとみて捜査をしている。ある落札企業の関係者は「本大会を取るためにテスト大会(の計画立案業務)を取った」と証言している。 東京五輪大会では、短期間に各地に点在する会場で一斉に競技が開催される。「1社では絶対にできない」とされ、各社で調整を行わないと大会が回らなかったという認識が、発注側の組織委員会と受注側の各社の間で共有されていた。 電通関係者も「大会が回らなくなるから、調整せざるを得なかった」と同じ認識を示している。「それを悪いと言われると……」と言葉を濁したという。 東京五輪を巡る贈収賄事件、談合事件で、スポーツ界に取り巻く、根深い腐敗の構造が明るみ出された。 とても、東京五輪のレガシーを語る余地はまったくない。国や東京都は膨大な額の税金を投入しで、TOKYO2020の開催経費は、「3兆円」を優に上回る。「3兆円のレガシー」をどうしてくれるのか。関係者の責任は大きい。。