FIFA 腐敗の軌跡

Source BBC NEWS

英紙「サンデータイムズ」のおとり取材 FIFAの賄賂体質が暴かれた
 賄賂にまみれたFIFAの腐敗体質が、英国の新聞によって暴かれ、世界に衝撃を与えた。
2010年10月17日、イギリス新聞、サンデー・タイムズの記者がおとり取材を行い、アメリカ合衆国へのFIFAワールドカップの誘致を目指すアメリカ招致団のロビイストに扮し、レイナルド・テマリー副会長(オセアニアサッカー連盟会長 タチヒ)とアモス・アダム理事(西アフリカサッカー連盟会長 ナイジェリア Armos Adamu)の2名に接触した。両氏は記者の誘導にひっかかり、投票の見返りに賄賂を要求したと報じた。
同紙によるとアダム理事(ナイジェリア)は個人的計画のために50万ポンド(約6500万円)を要求し、うち半分は前金での支払いを求め、テマリー副会長(タヒチ)はスポーツ学校への融資として150万ポンド(約1億9500万円)を求めた。
この様子は、小型ビデオカメラで隠し撮りされ、同紙は映像や音声も公開した。言い訳ができない動かぬ証拠を提示されたFIFAは窮地に立たされた。
これまで、FIFAの腐敗体質はたびたび批判を浴びていたが、初めてその実態が明るみに出た瞬間だった。
スイス警察 FIFA幹部ら7人を逮捕 早朝のホテルを急襲
 2015年5月27日、スイス警察は、早朝の朝6時、レマン湖畔の五つ星ホテル、ボー・オーラック(Baur au Lac)に踏み込み、国際サッカー連盟(FIFA)幹部6人を傘下の関連組織の幹部1人のあわせて7名を汚職容疑で逮捕した。幹部6人は次期会長選を2日後に控え、チューリヒの5つ星ホテルに宿泊していた。まるでハリウッドのアクション映画を彷彿とされるシーンだった。
 同日、アメリカでは米連邦捜査局(FBI)がFIFA幹部14と関係2社の大量起訴を発表した。 
 FIFAを巡る長年の腐敗体質はこうして司法当局によって告発されことになる。
腐敗の構造の元凶 ISL 倒産してFIFAの不正が明るみに
 FIFAの腐敗体質の解明が進んだ契機は、国際サッカー連盟(FIFA)と密接な関係にあったスポーツ・マネージング会社、ISL社の倒産(2001年3月)である。
 ISL社は、ドイツのスポーツ用品企業、アディダスがテレビ放映権やマーケッティングなどを取り扱うスポーツ・ビジネスに乗り出すために電通の出資を得て1982年に設立した子会社。スイスに本社を置いた。国際オリンピック委員会(IOC)のサマランチ会長、国際陸上連盟のネビオロ会長、FIFAのアベランジェ会長(当時)らなどとの人脈を生かしてFIFAワールドカップやオリンピック、世界陸上、FIFAワールドカップなどのテレビ放映権やマーケッティング権の利権を次々に獲得して、世界で有数のスポーツ・ビジネス企業にのし上がった。 ISL社は巨額のテレビ放映権やスポンサー料を払う企業を呼び込んで「スポーツ・ビジネス」を構築することに成功した。中でも国際サッカー連盟(FIFA)では、マーケティング代理店となってテレビ放映権やマーケッティング権を一手に仕切り、FIFAワールドカップを「金のなる木」に育てあげて圧倒的な勢いを誇った。
その裏で利権を獲得するためにFIFA関係者に猛烈な賄賂攻勢を行っていた。
 しかし、IOCとの関係解消やモータースポーツ(CARTのスポンサーパッケージ)やプロテニス(男子テニスATPツアー)など多角展開の失敗などで経営悪化、2002 FIFAワールドカップと2006 FIFAワールドカップの放映権ビジネス不調が決定打となり、2001年に約1億5300万ポンド(約268億円)の負債を抱えて経営破綻した。放映権やマーケッティングの獲得を目指したFIFA幹部の膨大な賄賂が経営悪化に拍車をかけた。
 負債総額はスイスで2番目になる大型倒産で、スイス司法当局は、債権者の債権保持に乗り出し、ISL社の幹部を詐欺・横領・文書偽造などの容疑で逮捕したり、資金の出し入れや会計書類を押収したりして、厳しく責任を追及した。
 そして捜査の中で、ISL社のFIFA幹部への不正な資金の流れが明るみ出されることになる。
 またISL社の関係者のメディアへのリークも相次ぎ、ISL社のFIFA幹部への贈賄リストも流出して米連邦捜査局(FBI)に渡る。
 FIFAの腐敗構造が明るみになったのは、FIFAの腐敗一掃の自助努力ではなく、こうした要因によってもたらされたものである。
FIFAの腐敗体質は一掃されたか
 FIFAの会長や副会長、理事は、汚職にまみれた時代から一新されている。
 しかし、汚職の温床となった開催国選定、テレビ放映権・マーケッティング権の入札、会長選挙は従来通り行われている。そして利権に群がる関係者は決して消えることはないだろう。「金がものをいう」というFIFAに染み付いた体質は果たしてなくなったのだろうか。
FIFAの腐敗の構造が一掃されたのかかまだ深い疑念が残る。